2015年06月14日

自安寺

千日前の墓所に、妙見菩薩を祭る自安寺という寺があった。

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能勢の妙見は大阪に相当信者が多かったらしいから、千日前の方へお参りする人も少なくなかったに相違ない。墓所がなくなってからも昭和初期まで夜店など出て、かなり賑わいのある寺だったという。

この自安寺、1967年に大阪市都市計画のために道頓堀沿いへ移転した。今その場所は三津寺という別のお寺の墓地になっている(中山 2013)。

http://gompa.seesaa.net/article/416237763.html

新しい自安寺の建物はビルになっていたが、のぼりや提灯が出ていて、すぐにそこと分かった。

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入口にはなぜか酒樽。酒樽の前を通って入ったビルの一室が、お堂になっている。薄暗くひんやりした堂内にも提灯がたくさん懸けられていて、いかにも庶民信仰の寺という風情。

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入ったところ、正面向って左手に、花祭りの誕生仏のようなのがあった。こちらは「浄行菩薩」といい、自分の体の悪い部位と同じ部位を洗えば、痛みや病が癒されるという「あらい仏」である。

この仏像が千日前にあった時のことを織田作之助が書いている。けっこうな人気だったようだ。「年中この石地蔵は濡れている。水垢で赤く錆びついていて、おまけに眼鼻立ははっきり判別出来ぬほどすり切れていて胸のあたりなど痛々しい。」(織田 1976)

今の仏像は真新しく、目鼻立ちもはっきりしていたが。

中央に鎮座ましますは看板役者の妙見菩薩。剣を振りかざした立派なお姿だ。北斗七星あるいは北極星の神格化で、特に「眼病治しに霊験あり」とされる。寺の公式サイトでは「當病平癒・息災長寿・妓芸向上・智福豊潤・商売繁盛・家内安全・万民和楽・五穀豊穣」に徳あり、としているので、だいぶ守備範囲が広い(自安寺 n.d-a)。「妓芸向上」とは聞かない文句だが、かつての環境と客層を表していて面白い。

一番印象的だったのは、右手に祭ってある厨子のような祠だった。こちらは実に五柱の神々が合祀されていて、「鬼子母神、弁財天、清正公、秋山白雲霊神、法相日前大菩薩」の名が記されている。

うち、鬼子母神、弁財天は仏典に見えるインドの女神。清正公は加藤清正の神格化だから、有名だ。彼女らや彼に比べて、「秋山白雲霊神」、「法相日前大菩薩」はさしてメジャーではないと思われる。

寺の公式サイトによると、「秋山白雲霊神」は痔疾に悩んで出家した人。若くして亡くなったが、「痔に苦しむ人が題目を唱えればこれを守護し平癒せしむる」と遺言して「痔病平癒」の神とされた、という(自安寺 n.d.-b)。

また、「法相日前大菩薩」は明治初期の自安寺の信徒で角谷タミという人のことだそうだ。「凄まじい霊力」を発揮したので、段々とその人の信者が増えた。その人の没後、「自然発生的に信徒が集まり」境内に祠が作られたという(自安寺 n.d.-c)。

宗門がこのような民間の神々を公認しているのか。なし崩し的に信仰されるようになったのか。とにかく今はヴェーダの神や戦国武将と、ビルの片隅で同居している。

このお寺は、千日前という特異な磁場を離れた今も、やっぱり何らか大阪の大阪らしさを体現し続けているのではないか、と感じた。

参考文献
中山市朗 2013「千と刑場の神隠し その1」(2013年06月11日)『中山市朗ブログ』
http://blog.livedoor.jp/kaidanyawa/archives/53959283.html
織田作之助 1976「大阪発見」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000040/files/4106_7695.html
自安寺 n.d.-a 「妙見大菩薩」『妙見宮蓮登山自安寺』(自安寺の公式サイト)
http://www.eva.hi-ho.ne.jp/reiho-ikeda/sub4/sub4-1-m/myoken.htm
自安寺 n.d.-b 「秋山白雲霊神」『妙見宮蓮登山自安寺』(自安寺の公式サイト)
http://www.eva.hi-ho.ne.jp/reiho-ikeda/sub4/sub4-6-shu/shuzan.htm
自安寺 n.d.-c 「法相日前大菩薩」『妙見宮蓮登山自安寺』(自安寺の公式サイト)
http://www.eva.hi-ho.ne.jp/reiho-ikeda/sub4/sub4-7-h/hoso.htm

*自安寺
仏教 日蓮宗 単立
〒542-0077 大阪府大阪市中央区道頓堀1丁目東5-13
06-6213-0330
(地下鉄堺筋線・千日前線「日本橋」下車。堺筋を道頓堀まで北上、道頓堀の南側の道を少し東に行ったところにある。)
管理人の訪問日:2015年5月13日
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